いつか、晴れた昼下がりに。 「おはようございます」 まだ薄暗い、早朝の静けさを打ち破る、鮮やかな声。 声を掛けられた男が振り向くと、そこには鮮やかな、金色の髪をもった女が立っていた。 「おはようございます。さん」 男は彼女に向かってにっこりと笑い、挨拶を返した。 その笑みには、まるでこの世の全てを包み込むような寛大さが見て取れた。 「死んだ人間はずっと、その中にいるんですかね」 と呼ばれた女は、柵の向こうにある墓石と、その前に立つ男を見ながら言った。 独り言のような口調だった。 男は返答をせず、黙って横目で墓石を見て、穏やかに目を細めた。 「あなたも、ずっと、あの中にいるんですか?」 女は右手にある教会に目を移して、また独り言のように呟く。 男は胸に掛けた十字架に手を遣って、教会を見た。 「昔、わたしは何度も人間の、自分自身の非力さを呪いました」 口を開いた男は少し俯いて、しかし、その表情は微笑みだった。 「けれども、この町に来て、この町で暮らして、人間は確かに非力だけれども、無力ではないことを知りました」 女は上りかけた太陽に目を細めながら、男を見ていた。 「そういえば、うちの牛が、ようやく大きくなったんです」 突然、違う話をし始めた女に、男は顔を上げて首を傾げた。 「いつか、晴れた昼下がりにでも、来てください」 女がにっこり笑って、その顔は太陽に照らされて、眩しいほどに輝かしく見える。 「麦わら帽子を持って、ね。カーターさん」 そう言うと、女は金色の髪を揺らして向きを変え、ゆっくりと歩き出した。 男は一瞬、驚いたような顔をして、そして、にっこりと笑った。 「ありがとうございます。さん!」 太陽の位置が高くなり、町全体を明るく照らす。 ああ、今日はお昼寝日和だなぁと、男は微笑んで動き出した。
<2004.9.23> 初、牧物夢……? 駄作だというのは百も承知です。 とりあえず、様子見ってことにして。