TYPE-L 04.曖昧 あの頃の、あたしとリーマスの関係は、傍目から見れば、ひどく曖昧で、不自然で不気味なように見えたかも知れない。 事実、あたしとリーマスでさえ、そう感じていたのだから、それに対してはなんの不満も無い。 あたしとリーマスはお互いに好き合っていた。 けれども、それを確認した日、リーマスは「でも、付き合うことはできないよ」と、静かに笑って言った。 あたしは、それに対して「うん」と答えた。 リーマスがそう言ったからではなく、付き合うことで背負うリスクを考えたら、それもいいかと思えたからだ。 付き合うことで、必ずしも、ふたりが幸せになれるとは思えなかった。 あたしが、自分がもってる汚さだとか、狡賢さだとか、際限の無い欲求を、リーマスにすべて曝け出すのを恐れていたように、リーマスも何かしら、わたしに見せたくないものを抱えているようだった。 人を愛する気持ちはとても素晴らしいものだけれども、どこか傲慢で気持ちの悪いその感情で、お互いの足に枷をはめるのは、どうしても嫌だった。 とても曖昧で、流れ行く川のような気持ちを形にするのは、恐ろしいことだ。 形として、目に見えるものにしてしまえば、それを崩すのは難しくなる。 きっといつかは形に縛られて、上手く動くことが出来なくなってしまうから。 だから、あたしとリーマスに重要だったのは、お互いの気持ちを知ることだけだったのだろう。 リーマスが何を思って、それからの日々を過ごしたのかは判らない。 あたしはリーマスを思いやることを忘れないように、時々、そう思いながら、日々を過ごした。 いつかの冬の日だった。 外は寒くて、あたしは暖かい談話室の暖炉の前で本を読んでいた。 「」 名前を呼ぶ声がして、本から顔を上げると、リーマスがそこにいた。 「に見せたいものがあるんだ。もし良かったら、外へ出ないかな?」 リーマスは嬉しそうに笑いながらそう言って、あたしの返事を待った。 わたしはイエスと答えて、リーマスについて外へ出た。 「わぁ」 外へ出ると、灰色の空から雪が降っていた。 「初雪ね」 上を見上げると、高いたかい空の真ん中から、雪が落ちてくるのが見えた。 「喜んでもらえてよかった」 あたしがはしゃぐ様子を見て、リーマスが優しく微笑んだ。 「ありがとう。リーマス」 「ねぇ、。手を、繋いでもいいかな?」 お礼を言うと、リーマスは照れたように笑って、そう言った。 「うん」 真っ白な雪が舞い落ちる中、灰色の空の下を、あたしとリーマスは手を繋いで歩いた。 寒さのせいか、外には誰もいなくて、とても静かで、雪の降る音が聞こえるようだった。 お互い口数が少なくなって、段々と白く染まってく風景を見ながら、ゆっくりと歩き続けた。 「リーマス、あたしのことを嫌いになったら、すぐに言ってちょうだい」 「うん。も」 あたしは、リーマスにそう言ったけれど、きっと、リーマスがあたしのことを嫌いになっても、あたしはずっとリーマスのことが好きなんだろうと思った。 人の気持ちは曖昧で移ろいやすいから、人を思いやるのはとても難しくて。 けれども、それは、とても心地よくて優しくて。 たとえ、あたしとリーマスの関係が、ひどく曖昧で不自然で不気味なものでも。 繋いだ手の温かさだけは、とても確かに、はっきりと、今でも鮮明に思い出せるほどで。 ホグワーツを卒業してからの、あたしとリーマスの関係は、あの頃以上に曖昧だった。 けれども、不自然さはいくらか薄れて。 思いついたように送られてくる手紙の最後は、必ず同じ言葉で締め括られている。 『また、いつか、機会があったら会いましょう』 あたしも、同じように、その言葉で手紙を締め括るけれども、会って話しをしたことなど、一度も無い。 お互いに、忘れてしまえば楽なのに、忘れそうになると手紙が届く。 何度も何度も季節を越えて、あの頃よりはいくらか多くのことができるようになって。 会って話せば、何か、もっと確かな関係を築けるのかも知れないけれど。 今のあたしとリーマスに必要なのは、お互いの気持ちを知ることでも、繋いだ手の温かさでもなく。 あまりにも曖昧なこの距離で。 それは何よりも、確かなこと。 ---------------------------- <2004.8.14>