TYPE-L 07.空っぽの箱 それは今から10年以上昔の話。 闇の帝王がいなくなり、世の中が明るくなった頃。 セブルス・スネイプがホグワーツの教師になった翌年の新学期、暑いあつい夏の日の話。 さんさんと降る日差し。 世界は間が抜けたほどに平和そのもので、さえずる鳥の声はそれを喜んでいるかのように陽気だ。 そんな中、スネイプは青々と茂った緑を踏みつけ、黒いローブを引きずって歩いていた。 何もかもが幸せそうで、不幸など、この世のどこにもありはしないというような顔でのうのうと生きていて、彼はその全てが不愉快で仕方が無かった。 何もなかったかのように、こうして、のうのうと生きる自分自身も。 間違ったことをしたつもりはない。 もし間違っていたとして、だとして、今、自分に何ができるというのだろう。 世界は一度終わったのに。 いっそ、自分も世界と一緒に終わってしまえば良かったものを。 「……んなこと…スネイプは……いち・・・にする……じゃないでしょ…」 進む方向にある、背の高い木が落とした濃い影から、女子生徒の声で自分の名前が聞こえた。 「でも…・・・っぱり……しいって……」 どうやら、女子生徒が2人、木陰で休みながらお喋りの最中らしい。 大方、グリフィンドールの生徒が悪口を言っているのだろう。 スネイプはそう思い、減点でもしてやろうと、静かに木へと近づいた。 「そんなこと、いつまでも気にしてたら、スネイプなんかに渡せないでしょ!」 近づいて聞いてみると、その声には聞き覚えがあった。 授業中、いつもギャーギャーと騒がしいミス・だ。 と、すれば、もう一人はいつも彼女とつるんでいるミス・だろう。 一体、何を渡そうとしているのか。 覗いてみると、の手には、綺麗にラッピングされた箱がある。 スネイプへの贈り物とでもいうのだろうか。 何かの悪戯だろうと、疑うのに1秒も要らない。 「ミス・。一体、我輩は何を頂けるのですかな?」 スネイプはニヤニヤと笑いながら、の持った箱を、後ろからひょいと取り上げた。 「……!!」 一体、どれだけの時間を掛けたのだろうか。 そのラッピングは、思わず手を伸ばしたくなるほど美しく、洗練されていた。 そこまでして、スネイプに仕掛けたかった悪戯とは、何なのか。 もしかしたら、性質の悪いものかも知れないと、スネイプは一瞬開けるのを躊躇った。 しかし、傍目からは躊躇ったのが分からない程、すぐに思い直して、スネイプはリボンを解き、箱を開けた。 最悪、死ぬようなことになっても、構わない。一度終わった世界にいる必要など、ありはしないのだから。 開いた箱は空っぽだった。 しかし、下らない悪戯にしては、手が込んでいる。 見ると、は呆れ顔で、の方を見ている。 は両手を後ろに回していた。 「魔法で中身を出したのかね、ミス・」 「あの……いえっ……」 あくまで、中身を隠そうとするに、少々、苛立ちながら、スネイプは彼女の腕を掴もうとした。 「もう…いい加減に諦めて渡しちゃいなさいよ」 腕を掴む寸前で、が呆れ顔で、そう言った。 は困惑した表情でを見て頷くと、両手をゆっくりと前に差し出した。 そこにあったのは、真っ赤な、温かそうな、毛糸の。 「あの、マフラー……もらってください!!」 呆気にとられて、固まっていると、は顔を真っ赤にして言う。 「あの…去年の冬、先生、なんだか寒そうに見えて。だから……夏休みに編み始めたんですけど…思ったより早く出来上がってしまって…その……」 しどろもどろになって言う様子が、なんだか可笑しくて可愛らしくて。 まだ、半年も先の自分の事を、想ってくれている人がいるなんて。 スネイプは、ほんの微かに笑って、マフラーに手を伸ばした。 「ミス・、有難く頂くとしよう」 どうして、この世が一度終わったなどと思ったのだろう。 どうして、この世にいる必要がないなどと思ったのだろう。 世界は間が抜けたほどに平和そのもので。 その平和の意味を知っている自分が、その幸せを噛み締めなくてどうするというのだろう。 何もなかったかのように、こうして、のうのうと生きる自分自身が如何に愚かであろうと。 きっと、冬が来るまでは、その日を想って生きていける。 ---------------------------- <2004.9.20> 死のうと思っていた。 今年の正月、よそから着物を一反もらった。 お年玉としてである。 着物の布地は麻であった。 鼠色の細かい編目が織り込まれていた。 これは夏に着る着物であろう。 夏まで生きていようと思った。 (太宰治) ぶっちゃけ↑だけ読めばいいかとも思う。 ストーリー考えてから書くと文がぎこちなくなる気がする。