TYPE-L 08.人生相談所 いつもと同じ、冷たい廊下を、いつもと同じように歩いていると、行く先に見慣れない扉があった。 スネイプは眉間に皺を刻んで、その扉に近づいた。 見ると、木でできたその扉は古く、幾筋もの傷が白く刻まれ、しっとりとした重みを感じさせた。 そして、その扉には小さなブリキのプレートが貼られ、そこにある文字にスネイプは一層、眉間の皺を深くした。 『人生相談室』 太陽と月と、色とりどりの星のイラストで縁取られたプレートには、上品ながらも可愛らしさを含んだ書体でそう書かれていた。 どうして、この地下の廊下に、こんな扉があるのか。 そもそも、この学校にそんなものがあったのか。 あーだこーだと考えたところで埒が明かない。 スネイプは半ばヤケクソになりながら、ドアノブに手を掛け、次の瞬間、目を見開いた。 ギィと音を立てて開いた扉の向こうには、見覚えのある女が座っていた。 「おやおや、珍しい。教授のお客さんか。いらっしゃいませ、スネイプ教授」 正確には、おどけた様にそう言う女には、面影があったのだ。 「……?」 学生時代、同じ年に入学した、同じスリザリンだった。 「あぁ、覚えていてくれたのか。光栄だねぇ」 女は頬杖をついて、くっくと笑う。 その仕草も、おどけた様に喋る口調も、記憶の片隅に確かに残っている。 けれど。 「貴様は、死んだ筈だ」 静かな噂だった。 十数年前、闇の帝王に逆らって殺された、愚かな女がいたと。 ちょうどその頃、は誰の前にも姿を現さなくなった。 「それは、私じゃない。教授の勘違いじゃないかな?」 「どういうことだ」 「私はその頃から、ずっとここにいる」 納得はできなかった。 しかし、問い詰めたところで、納得できるとは思えない。 スネイプは黙って納得したフリをした。 「ところで、教授のお悩みは何かな?」 「は?」 「この部屋は、この部屋を必要としている人間の前にしか現れないものでね」 「我輩が相談相手を必要としたと?」 「まぁ、いいや。久しぶりに会ったんだから、少し話をしていかないかな?」 はポケットから杖を引っ張り出して一振りし、彼女の向かいの椅子を引いた。 スネイプは一瞬、躊躇った後、ひとつ溜息を吐いて椅子に座った。 「教授の仕事は楽しいかい?」 スネイプが席に着くと、扉と同じく木で出来た古いテーブルに現れた、温かい紅茶を啜りながらが尋ねる。 スネイプは答えず、紅茶を一口飲んだ。 「薬学は今でも好きなんだろう?」 答えないスネイプに構わずは続ける。 「結果や成果を求めるからつらくなる。好きなことなら楽しめばいい」 頬杖をついて、楽しそうに笑う。 「その点ではヴォルデモート卿はなかなか愉快な……」 バンッと、スネイプが机を叩いた。 「この部屋での会話は、誰の耳にも入らないよ」 そう言われて、スネイプは黙るしかなかった。 「……貴様は、生徒達にも、その偏見だらけの助言をしているのか?」 嫌味のつもりか、本心か、スネイプがそう言うと、は驚いた様に、何か閃いた様に目を見開いた。 「……い、や。あぁ、違うよ。いつもは相談者の話を聞いているだけだ」 頬杖をついて、くっくと笑いながら「あぁ、そうか」と呟く。 「教授がこの部屋を必要としていたんじゃないんだ」 スネイプはその意味がわからず、首を傾げる。 「私が教授を必要としていたんだ」 「私が教授に、話を聞いてもらいたかったんだ」 ---------------------------- <2004.10.7> 思うとおりにはなかなか書けないですね。 まぁ、いいか。