この世に生れ落ちてから、良い事ばかりがあった訳じゃないけど。 けれど、神さま。 こんなのって、あんまりじゃないですか!? シュガーレス→01 ホグワーツを卒業して、上手いこと就職したのは魔法生物の研究所。 必死こいて倒れるまで走って走って15年。 エリート街道まっしぐらなんて、格好の良いもんじゃないけど、『闇の魔術に対する防衛術』の教科書の最終ページの片隅には確かに私の名前が記されていたし、研究所を何度かふっ飛ばしそうになりながらも、未だ首は繋がっている。 部下や研究員の多くも私を信頼してくれたし、比較的何もかも順調。 不満は強いて言えば、恋人がいないこと、結婚できないこと、甘える対象が存在しないこと。 32歳独身の感じるそら恐ろしさ。 その日の朝の会議では、『魔法生物に関係するのっぴきならない事情で普通以下の生活を送ることを余儀なくされた人々を支援する』団体からの要請で行っている、薬の研究があまり進んでいないことについての、所長の長い長い話しを右耳から左耳へとさらりと流して、何事も無かったかのように担当の研究室へ向かった。 このところ仕事に身が入らない。 そら恐ろしさは不安と焦燥に変わって私を追い詰めた。 部下に指示をし終わって、デスクについて書類に目を通す。 中身は頭に入ってこない。 背骨を軋ませて伸びをして、ついでに椅子も軋ませる。 「あれ?君は……」 突然掛けられた声に海馬が何か叫んで、アドレナリンは一生に一度の大仕事とばかりに走り出し、シナプスはあまりの騒ぎに一瞬我が身を案じた。 つまり。 フラッシュバックする笑顔、笑い声。何より輝いていた日々を思い出させる声。 嘘も真実も真理さえも無い。 「……リーマス・J・ルーピン?」 「ああ、やっぱり!だよね?ホグワーツで2つ下だった!・!」 どうして、彼がここにいるのかとか、私の名を呼ぶ彼の声はどうして、あんなにも優しいのだろうかとか、どうして、私は朝ご飯を食べてこなかったんだろうかとか。 私の脳はオーバーヒート寸前で、面影の残る彼の顔を目に焼き付けようと、体を反らせ過ぎて、折れた椅子の背もたれと共に、理論や理屈やへそ曲がりなプライドやその他モロモロ、色んなものが砕ける音がした。 今までこだわってきた詰まらないものが、思いの他あっさり崩れて、開き直ったみたいに頭の中は空っぽで。 気分は爽快だったんだ。 続き物かよ!!とツッコミをいれてくれたあなたに感謝。 <2004.6.28>