もう、どこにもいけないと思ってた。 何もできないと思ってた。 けれど、私が私である以上、それ以外何も必要なかった。 シュガーレス→04 学生時代の私といえば、とにかく勉強が嫌いで、けれども、サボるのも恐くて、嫌々こなして。 そんなんだから、成績は良くもなく悪くもなくて。 かといって、運動が特別できるわけでも、何か特別な魔法が使えるわけでもなくて。 ついでに言ってしまえば、見た目だって、そんなに綺麗なわけじゃなかった。 だからこそ、私には彼らが眩しくて仕方が無かった。 私が勉強ができない理由は明白だった。 何か1つでも疑問に思うことがあれば、全て納得できるまで、覚えることができなかった。 魔法というのは理屈や理論を超越したところにあるものだと、分かってはいたけれど、マグル出身の私は結局それを理解できることはなかった。 そういえば、数学は大の苦手だった。 「ところで、。僕たちさっきからお喋りばかりしているけれど、いいのかな?」 甘いお菓子と、とっておきの紅茶を用意して、普段は本やら薬やら書類やらで埋め尽くされたテーブルはすっかりアフターヌーンティーの装いだった。 そんな中、最初は嬉しそうにお菓子を食べていたルーピンが、はたと手を止めて言った。 「いいんですよ」 一言だけ言って、私はティーポットに手を伸ばした。 「、おかわりはいる?」 自分のカップに紅茶を注いで、カップが空になっている様子のに声を掛ける。 「お願いします」と笑って言ったの元へ行く為に、椅子から立ち上がって壁の方へ向かう。 部屋の真ん中に置かれたテーブルに向かい合う私とルーピンは、壁際に椅子を置いて腰掛ける数名の研究員達に囲まれている。 ルーピンは自分が何故こんな状況で昔話に花を咲かせているのだろうと、困惑した様子だ。 「彼らは何をしてるんだい?」 片手でお茶を飲みながら、魔法で宙に浮かせたレポート用紙にメモを録る研究員達を見て、ルーピンが言う。 「会話を記録してるんです。本当はテープレコーダーでもあれば良かったのだけど」 テープレコーダーという単語にか、記録することの意味についてか、その両方にか、ルーピンは首を傾げた。 「えーと、テープレコーダーっていうのはマグルの録音機械で、会話を記録するのは、その中から不可解な点を探し出す為です。いつもはメモはせずに、私ひとりでやるんですけど……知り合いだと話が弾みすぎて上手くいきそうもないので」 そう言うと、ルーピンは納得したようだったが、どうにも居心地悪そうに、黙って紅茶を啜った。 ホグワーツでの成績が特別良かったわけではない私が、この研究所に就職したのは、卒業してすぐだった。 ルーピン達が卒業してからというもの、学校での生活は驚くほど詰まらないものだった。 彼らがいる間は、彼らの放つ、美しい輝きに酔い痴れるだけで充分に幸せだった。 けれども彼らがいなくなって、私の生活はまるで月のない夜のように真っ暗になってしまった。 道を照らすものが無い暗闇で、真っ直ぐに歩くことも出来ず。 どうすることも出来ず、立ち止まってしまった。 そんなある日、私は就職先を探す為に訪れたこの研究所で、再び歩き出すきっかけを掴んだ。 何気なく口にした、小さな疑問。 この研究所は、私のどうしようもない短所を、『疑問に思うことが出来る』という能力として評価してくれた。 当時、まだ若かった所長が言った言葉を、私は今でも覚えている。 「知っているかい?普段は月明かりが強すぎて見えない小さなちいさな星も、新月の夜には見ることが出来る。そして、その星は、月の夜も、見えなくても、確かにそこで輝いているんだ」 月明かりなどなくても、君には道が見えるだろう。 光は君の中にあるのだから。 「あぁ、そうか」 注目すべき点は『月』だけではないのかも知れない。 月の灯りで遮られる、小さなちいさな星の光。 紅茶のカップを静かにテーブルに置いて、ポケットから引っ張り出した、くしゃくしゃになった酒屋のレシートにメモをする。 「あ、さん!お酒やめるってこの間、言ってませんでした!?」 すかさずが小言を言って、皆が笑う。 目の前で、ルーピンが笑っている。 何もかもが上手く行きそうな。 とても、幸先のいい感じがした。 夢か、もしくは所長夢のようだ……! 笑えん。 <2004.10.27>