苦しみと憎しみの日々を
「ハセ。私、死んじゃった」
がそう言うので、俺は失望のあまり目を伏せた。
の姿は生前のそれと寸分違わず、情け無いような表情も相変わらずだった。 彼女はいつもその表情で「もう嫌だ。もう嫌だ」と弱音を吐いて、その度に俺はいつか彼女を殺して喰ってしまおうと思った。 しかし彼女は散々溜め息を吐いて、ときには泣いて、そして最後には何事も無かったかのように去って行くのだ。
毎日のように繰り返されるその行為は、何か呪いの儀式のようで、あまりにも濃いその想いまで腹に収められる気がせず、俺はを喰うことができなかった。
「何だかもう、どうでも良くなっちゃった」 今にも消えそうな姿でそう言う。 彼女はもうスカスカで軽く、どこへでも行けるようだった。 彼女の呪咀のような負の感情はどこへ消えたというのか。 俺はどこかへ消えてしまいそうな彼女の腕を掴んで繋ぎ止めようとした。
「」
彼女の魂を今度ばかりは喰ってしまおうと、手を動かした。 「ハセ」と彼女が俺の名前を呼んで笑った。 諦めたようにも見えるその笑みに俺はまたしても、どうしようもなく失望して、何でどうしてと繰り返し呻くように呟いた。
が最後に消えそうな声で何かを言った。
その声は聞こえなくて、俺はが泡のように消えて行った空を目で追った。
彼女の苦しみと憎しみの日々をそれ以外の名で呼ぶのならば、なんと名付けるのだろうか。
ふいに『愛』という言葉が宙に浮かんで、
俺はまた、失望のあまり目を伏せた。
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060529
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