ピンと伸ばされた白いゆびさきに、一瞬我を忘れそうになった。
春よ、
辺りを一面、真っ白に染めた雪から、女の白いゆびさきが覗いている。
そのゆびさきは雪のように白く、あるいは雪よりも白いのかも知れない。
どちらにしても、その白いゆびさきを見落とさなかったのは、真っ白い雪に、赤い血が、よく映えたからだ。
「死んじゅうのか」
その白いゆびさきには心当たりがあった。
あのとき、そのゆびさきばかりを見ていた。
ゆびさきにそっと触れると、まるで氷のように冷たい。
けれども、驚いたのはそのことではなく、むしろ、それは予想の範疇だった。
驚いたのは、触れた瞬間、その白いゆびさきが、
ぴくりと 動いた。
「生きちゅうのか」
積もった雪を掃いながら、女の名前を思い出そうとした。
白いゆびさきの、なんと美しいことだろうと、確かに訊いた筈なのに。
雪に埋もれた女の顔をよく見たが、見たことのあるようなないような、けれども、そのゆびさきには確かに見覚えがあるのだ。
女は背中を軽く斬られていたが、なにせ、出血とこの雪だ。
微かに聞こえる呼吸は余りにも苦しそうで、いっそ、この胸の中で死んでくれればと思った。
「のう、おまんの名前を忘れてしもうた」
何故かそのとき、女はその美しいゆびさきで、どこからそんな力がと思うほど強く着物の背中をぎゅっと握った。
「」
。嗚呼、だ。
確か、そう、そんな名前だったんだ。
「。生かしちゃるから、しっかと生きーや」
震えてすらない体を背負って、明け方の京を歩いていく。
空からはまた、ちらちらと真っ白な雪が降り出して、真っ赤な血の跡も昼には消えるだろう。
そうして、雪がゆっくり融けて。
「はよぅ春が来るとえいにゃー」
<2005.03.05>
ゆ め か 、 こ れ ?
相変わらず土佐弁わかんねぇ。
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