もうすぐ、夏が終わるよ。
「あれ??」
夏休みも残り僅かとなったある日の夕方。コンビニを出ると、見慣れた白い制服の男子に声を掛けられた。
見るとそこには、私立山吹中学男子テニス部御一行。
声を掛けてきたのは、同じクラスの室町だった。
「え、誰!?室町くんの彼女!?可愛いなぁ!」
室町が立ち止まると、一緒に歩いていたテニス部員達が、私に関心を向けてきた。
明らかに校則違反なオレンジ頭が妙なことを言って、恥ずかしい。
「クラスメイトっスよ」
室町がきちんと否定する。
オレンジ頭は詰まらなさそうに「なーんだ」と肩を落とした。
「何買ったんだ?…」
室町が私の持っていた、コンビニの大きな袋、三つを見て尋ねてきた。
何か可笑しなことになってしまったと、思わず笑ってしまう。
「花火…」
山吹中の近くの川原で、はしゃぐ白い制服の男子達。
まだ、少し明るいというのに、千石清純と名乗ったオレンジ頭は早くも花火に火を点けている。
「…なんか、悪かったな。」
「ん?別にいいよ。どうせ、あんなに沢山、ひとりじゃ余っちゃうし」
室町とはクラスが同じだったが、あまり喋ったことがなかった。
日に焼けた黒い肌が印象的だった。
意外と礼儀正しい、というか律儀なかんじだ。
「…あれ、ひとりでやるつもりだったのか?」
「うん、そう。宿題も終わっちゃったし、友達と遊んでも疲れるだけだし、やることないなーって思って」
「そうか。俺なんか、毎日、部活行って、帰って、飯食って、寝る、の繰り返しだからな。むしろ、宿題すら終わらないぜ」
必死になってボールを追いかけて、くたくたになって家に着いて眠って。動く為に眠って、動くから眠って。何一つ、無駄がない。
「充実してるねー。いいね、そういうの」
暗くなって、花火が綺麗に見えてきた。
火花と煙にはしゃぐ声が混じる。夏を見た。
「家でだらだら昼まで眠って、クーラーの効いた部屋でテレビ見てるのって、どうなのかなーって。なんか、大きいことやりたくなってさ。衝動的に」
「コンビニの花火、買占めか…すげぇな」
室町が喉の奥で、ククッと笑った。
喉の動きに一瞬、目を奪われた。
「見つかるといいな。夢中になれること」
ああ、そうか、別に大きなことがしたかった訳じゃないんだ。
私は。
「室町くーん!」
千石先輩が、コンビニの袋を持って、こちらに走ってきた。袋の中身は三分の一ほどに減っていた。
「俺達、亜久津くん呼んでくるから!!」
千石先輩はそう言って、室町に花火の入った袋を押し付けて、室町になにか耳打ちすると、他の部員達を引き連れて、どこかへ行ってしまった。
「亜久津って、あの不良の?なんか、スゴイことになってきたねー」
「…まったく」
笑い声が重なる。
「花火やろっか」
「あぁ、うん」
線香花火はラストに取っておいて、派手なミニ打ち上げは、亜久津先輩に取っておいて。
「あ、そうだ。」
ヘビ花火を手にとって、室町が言う。
「明日、部活休みなんだけど、宿題、教えてくれないか?」
三本の花火に一気に火を点けて、夏の夜空に星を描く。
光の残像。消える前に。
思い切り笑って。
もうすぐ、夏が終わるよ。
室町なんてわかんねぇ。
<2004.4.29> |